teruyastarはかく語りき

TVゲームを例に組織効率や人間関係を考える記事がメインのようだ。あと雑記。

カプコンに学ぶデスマーチにならない仕事術

ほんとにヤバくなってギリギリになるまで相談しない人々: 切込隊長BLOG(ブログ) Lead‐off man's Blog
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2010/03/post-1da9.html


いつも予防線が突破されるので、いずれにせよ年がら年中修羅場になってるわけだが、
修羅場をこなしているうちに、常在戦場みたいな組織が出来上がって、
毎日ラットレースをしている敗戦処理のエキスパート軍団ができちゃう。
戦況だけ見ると実に見事に負けてるんだけど、
担当した局地戦だけはどうにかなっちゃってるというような。


そういう組織は、人が内部から壊れていく。鬱になったり、病気になったりする。
まあ、発展性のない業務に長時間据えられて、
強いストレスに晒されながら安い給料で働くわけだからねえ。
一個一個のデスマーチは、マーチである限り終わりはあるわけだけど、
デスマーチは仕事の様態ではなく企業の仕事のとり方に起因するから、
その業界や企業や経営者の考えが変わらない限りチェーン状に無限連鎖になってる。


だから、生き残れるのはその仕事が好きな人、精神的にタフな人ばかりになって、
そういう人は自分ができている、乗り越えているので、
部下や下請けにもそういう状態を強いる。求める。駄目な奴は要らない、となる。
修羅場に臆しない良い戦士は、必ずしも良い将軍、良い指揮官ではないのだ。


(∩゚д゚)アーアーきこえなーい


どこぞの上層部がリスク回避ばかりで、
そのリスク回避こそが最大のリスクで結局潰れちゃったとか
僕にはなんのことかわからないですよ(´・ω・`)

いつまでも会社が苦しいのは、どうしようもならなくなる前に、
どうにかするには何を為すべきか、きちんと考えることだと思うんだよね。
どうにもならなくなって増資、駄目になりそうだから借入を繰り返していても、
いずれは疲れ果てた最後にすべてを失う羽目になる。
博打の場に座っていたいがために、勝ち目のない勝負にチップを張り続けるみたいな。


ということで同じ轍をふまないためにも
どうやってそこから抜けるか考えてみる。


大手のカプコンと比べてどうすんだってのもあるが、
中小でも問題の本質は同じと考えれるし
ゲーム業界そのものがデスマーチの構造を含んでいます。


それは、
自ら新しいイノベーションを起こしつづけなければいけないこと。
自らの定番シリーズでもゆるやかなイノベーションを起こし続けること。
でなければ、定番シリーズの縮小再生産しかやることなく、
それは給与もモチベーションも開発も会社も死んでしまう圧力であり、
そのうえさらにハードの進化に伴い開発費は増大し続けるという圧力がある。


これらは大手も中小も関係なく構造に組み込まれるので
すでに現代の業界規模やインフラ技術、世界経済の縮小などから、
会社そのもののあり方を変えなければいけないところに来ていると思う。


まず引用記事から3つの基点に絞る。

1、経営と開発を分けて考えないフラットな組織への移行


2、越権行為を行う勇気


3、ヒットコンテンツを作る心構え


こんなのもちろん生半可な覚悟と決断ではできないので、
この記事は誰も実行しない机上の空論である。
しかし、変わらなければ
いま八方ふさがりで死を待つだけの会社が多数なのもまた事実だが
あくまで思考実験。


以下本文。



195億円の赤字から立ち直ったカプコン

危機から復活を遂げたカプコンは世界企業に変われるか デジタル家電&エンタメ-新清士のゲームスクランブル:IT-PLUS
http://it.nikkei.co.jp/digital/column/gamescramble.aspx?n=MMITew000022052009


03年3月期決算でカプコンは、195億円の最終赤字を計上した。
開発中だった18タイトルを中止して50億円の特別損失を出し、株価も大きく下落した。


~
2009年3月期決算が出そろった。
増収増益を達成したカプコンは、売上高が前の期比10.6%増の918億円、
営業利益が同11.4%増の146億円。
世界的にソフト会社の業績が悪化するなかで、ひとり気を吐いている。


旧はちま起稿 - 2009年4-6月期決算、ゲーム業界内で唯一好調なのはカプコンだけ?
http://hatimaki.blog110.fc2.com/blog-entry-1297.html


カプコン、PSP「モンスターハンターポータブル 2nd G」。国内での累計出荷本数が300万本を突破
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20090212/mhp.htm


カプコン、PS3/Xbox 360「ストリートファイターIV」全世界出荷本数200万本を突破
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20090223/sfiv.htm


カプコン、PS3/Xbox 360「バイオハザード5」。全世界での初回出荷本数が400万本を突破 - GAME Watch
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20090316_76002.html


カプコン、UBS、投資判断「Buy」へ引き上げ 2009/11/26(木) 13:57:35 [サーチナ]
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2009&d=1126&f=business_1126_120.shtml


2003年頃のカプコンは格闘ブームもとうにおわり、
アーケードからの撤退宣言も噂され、
主力のバイオハザードがドリームキャスト→ゲームキューブという選択ミスをし、
同系統の鬼武者、デビルメイクライシリーズも縮小再生産していくころである。


いちゲームファンから見てもこのときのカプコンに次の弾がない。
年間195億円の赤字にまで膨らむ開発はここからどうかわったのか?

カプコンを変えた「安い、早い、美味い」の3原則と、その先にある「総合力」 - GAME Watch
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20090903_312660.html


ゲーム開発に必要なことを、
地道にやっていくことが大事じゃないかというのが結論でした。
そこで発生する瑣末な問題を処理していくためには、

基礎的な体力を見直す必要があります。



フラットなためにその1

7つの開発部署を1つに統合

カプコンでは当時、チーム単位で異なるエンジンを作り、
別々に運用しているケースが目立ったという。
似た表現のゲームがなぜ同じエンジンでできないのか。
竹内氏は、会社が大きくなるとこういった問題が起きがちだという。
特にコストのかかる技術開発に関しては、
属人的な状況を変えて共通規格化することに大きな効果がある。
組織改革にあたって、まずゲームエンジンを一元化しようとしたわけだ。


「ウチではそのための必殺技が『MTフレームワーク』です。
どうも最近は評判が独り歩きして、
凄いグラフィックスエンジンがあるらしいなと言われているようですが、
本質はグラフィックスではありません。
肝は、これを全社で使うということです」


また、竹内氏はこうも言っている。
「ゲームエンジンを作れる人間はそうそういません。
そういった希少なスタッフを一極集中することでクオリティを高めることができます」。
こうして、それまでは各部署それぞれにコストがかかっていた
研究開発や制作パイプラインの仕組みを1本化し、開発における「安い」が実現された。


「バケツリレーに例えると、
リレーをする人間が滞りなく水を受け渡すことで
『早い』が実現されます。バラバラになっていたり、
途中で人が欠けていれば水は運べません。
そこで、単純に開発期間を削るという発想ではなく、
開発をいかに組織化するかということを課題にしました」。


最新のプロジェクトのひとつである「バイオハザード5」では、
120人のスタッフが開発に関わっていた。
その120 人がバラバラに動いていては収集がつかないので、
適切な単位でリーダーを置いていく必要がある。
また、必要な人員の多寡というのは開発の進捗状況によっても変わってくるので、
別のプロジェクトチーム間でスタッフが流動的に動ける環境も必要だ。


それを実現するために竹内氏が繰り出した「必殺技」は、「開発の1本化」。
7つあった開発部をまず2つに減らし、最終的には1つにまとめたという。
それ以前は開発部が細かく分かれていたために情報の共有や人員の融通が滞り、
バケツリレーに例えれば「バケツを落としまくって会社が水浸しだった」という竹内氏。
それを脱却するために会社の全員が大きくひとつのチームとして動ける環境を整備した。


これには「安い」につながるメリットも多数あった。
まず、総体的な管理コストが減り、固定費も下がる。
出張などの手続きが一元化できる。
技術共有、機材やスタッフの融通もスムーズになる。
そのおかげで、カプコンの「行動のスピード」は明らかに上がったのだという。


部署の1本化を大手で実現したのは、ほんとにすごいと思う。
ゲーム業界大手はこの手の問題にずっと悩まされましたが、
それぞれの部長であるプロデューサーや、ディレクターは
同じ会社でもまったく開発哲学が違うので、統合できないのが常。
記事で言う「水浸し」は当然で、
結果クオリティはピンキリになりエネルギーロスは大きいが
全て独特の味がある作品にはなる。
FPSエンジンで効率化を優先する欧米と比べて
非効率な日本のゲーム作りの象徴ともされてきました。


そんな一癖も二癖もある開発者相手に「標準化」を達成したのだから
会社を変えたいというカプコンの信念は本物だったのだろう。
ただ、前後で
岡本吉起(元開発統括)
船水紀孝(元第1開発部長)
三並達也(元第3開発部長)
三上真司(元第4開発ディレクター)
神谷英樹(元第4開発ディレクター)
稲葉敦志(元第4開発部長)
など、名だたる部長やディレクタースタッフが独立したのは
やはり一悶着あったのかもしれないが、妄想なので関係するかはわからない。
現在は稲船敬二氏(元第2開発部長)が開発統括。

カプコン 電子の猛者たち―ゲーム世紀に生きる32人へのインタビュー集 (ファミ通ブックス)カプコン 電子の猛者たち―ゲーム世紀に生きる32人へのインタビュー集 (ファミ通ブックス)

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2000年のまだイケイケの頃のインタビュー本。
このときすでにバイオハザードエンジンの共通化に触れる稲船氏が
ビジネスよりの視点だったり、
バイオ、逆転裁判、デビルメイクライなど、第4開発の面々が、
とことん作り直すゲームの面白さを追求したり
その後のカプコンを示唆してるようで面白い。


ジャスティス学園ディレクターの
伊津野 英昭氏のインタビューも目を引きます。


フラットなためにその2

経営者は開発のことを、開発は経営のことを考える

CEDEC 2008 カプコン稲船敬二氏が基調講演。クリエイターと経営が歩み寄り、世界へ攻めるゲームを作る
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080910/ina.htm


稲船氏は「クリエイターは甘えている」と厳しい言葉を続けた。
「自分達にはクリエイティブな才能があるのに、経営側はわかってくれない、
といってクリエイターは逃げる。そういって独立していくが、ヒット作を出せない。
ビジネス面から逃げてクリエイティブに行っている。
これだけではヒットは生まれない」と指摘した。


クリエイターだけでなく、経営側にも問題があるという稲船氏。
「どんなビジネス業界のすごい人が来てシステムを整備しても、
ゲームのヒット作は生まれない。ここが一番大事。
クリエイターは甘えていて、経営者は偉そう。
互いに理解しようとしないのがゲーム業界の悪いところ。
ここが合致しない限りヒットは生まれない」と、
両者が互いに歩み寄ることの重要性を示した。


では、どうやって経営側に自分の考えを理解してもらうのか。
稲船氏は、
「本当の意味で理解させるのは無理。
経営側は金儲けのことを考えているが、
クリエイターは基本的に金儲けを考えていない。
そこには絶対に交わらないところがある」という。


もちろん、交わらないからそれまでというのではない。
「ゲームが大好きという経営者は少ない。
経営者はお金をどう増やすかがゲーム性のようなもの。
クリエイターもお金は欲しいけれど、それが全てじゃない。
ユーザーが何を求めているかは考えているはずなのに、経営者のことは考えられない。
これを考えてあげて、自分の中で少しずつ矛盾に近づいて欲しい」と語った。



■ ゲームを作れるなら、経営もわかるはず


クリエイターに対しては厳しく語る稲船氏だが、
今回は経営側との間に立つ身として、
双方に理解を示し、
両者を近づけようという意思が感じられた


クリエイターと経営の間で最も多い問題は、開発期間によるものだろう。
「いいものを作るのにやり直して何が悪い、
制作期間延ばして何が悪い、ユーザーは喜ぶ」
というクリエイターに対し、稲船氏は
「それは甘え。与えられた期間の中でできないのが悪い。
できなかったのになぜ開き直っているのか」と叱る。


ただ稲船氏自身、クリエイターとして、
それはありえることだと理解はしているという。
その上で、「そこで開き直るのではなく、
その欲しい時間でどれだけの数字を上げられるのか示さなければならない。
もっとよくなるんです、だけではわからない。数字が、株価がこのくらい上がります、
市場でこう評価されますと言わないと経営側には伝わらない」と語った。
クリエイターが経営側の事情を理解してこそできるものだ。


また経営者にも、
「経営者がクリエイターに対し、ゲームバカに言われる筋合いはない、
と思ってはいけない。こうやっていくことで開けてくることもある」と、
クリエイターへの理解を促した。


稲船氏はクリエイターに対し、
「経営ってそんなに難しくない。ゲームを作れるならわかるはず」と、
一層の歩み寄りを促した。
「どうやったら赤字にならないか、コストを削減できるか、
スケジュールに間に合わせられるか。
できあがったら見せます、と適当にやっていてはダメ。
考えてやっていくことで、必ずできることはある。
日本のゲーム業界にはこれが足りない」と説明した。


これはホントに共感します。
開発と経営は突き詰めると形が似ている。
ゲーム開発ができたら経営ができないわけがない。
もっとミクロで見ても、

プログラミングとは経営判断の集積である - 分裂勘違い君劇場
http://d.hatena.ne.jp/fromdusktildawn/20060118/1137558108


ソースコードの一行一行は、経営判断そのものだ。


どの部分を汎用的につくり、どの部分をやっつけで作るか、
そして、どの部分をパフォーマンス優先でつくり、
どの部分を可読性優先でつくるかは、
そのソフトウェアステムを使って今後どのようなビジネス展開をするか、
ということと一体不可分だ。
プログラマーは、絶え間なく改変されていく部分と、
財産として今後も使われつづけそうな部分を意識しながらコーディングする。
そして、ここでいう財産とは、プログラマが財産とみなすものであるだけでなく、
同時に経営的・財務的な意味においても財産であり、
会社のバランスシートの「資産」の項目に登場するような性質のものだということは、
多くのエンジニアが漠然としかいしきしていないように見える。


プログラムじゃなくても、絵だって、サウンドだって、モーションだって同じことが言える。



経営者はお金だけじゃなく、真剣に開発者のことも考えれば、
どうすればいいのか自然と時代の最適解を導き出せる。


開発者は経営とのバランスをどうとるか考えると、
先の「地道な基礎体力」をどうつけていくか、
「現在の基礎体力でなにをするべきではないか?」
「委細矛盾する水浸しの状況を
"仕方ないこと"で思考停止せず、どう解決していくか?」
などに収斂する。


また、両者ともに読んでおいてほしい3シリーズがある。
両者が読んでいれば、とても話がスムーズになるばかりか
経営から細かな開発までどの大きさに合わせても当てはまる共通哲学だ。


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本を読まない人でも、現在会社が行き詰まってるなら
「地道な基礎体力をつける」前に、
その土台となって支えてくれるので読んでて面白いと思う。
僕は年間を通して通勤電車で読んだ。


とはいえ、カプコンの社員みんながこれらを読んだわけじゃない。
すると、やはり経営と開発の矛盾が噛みあわないはずで、これをどうしたのか?




越権行為を行う勇気、あるいはしたたかさ。

ここで少し、4年前のことを振り返った稲船氏。
「当時はどん底の状態。経営サイドは
『リスクを回避してくれ。
新しいゲームを作るな。
続編でお金になりそうなものだけをやれ』という。
そこで『はい、わかりました。その通りです』と答えた。
そして実際はその逆をした」という。


キーワードは「リスクを考えないこと」だという。
当時は次世代ゲーム機が発表された頃で、
「どの次世代ハードが勝つのか」が焦点となった。
まだ発売前の段階では、いくらデータを集めても絶対はないのだが、
経営側としては根拠のない冒険は見過ごせない。その状態でどう押し通すか。


稲船氏は「嘘をつくことも大切」とあっさり答えた。
「『絶対売れるのか?』と言われたら、
『絶対売れます!』と嘘を言って押し通せばいい。
信じるか信じないかは相手次第だが、
やる前から『自分にはそんなことはできない』というのはダメ。
それはゲームに自信がない証拠だ」という。


ひじょうにガツンときました。
独断で動くのも、上司に嘘をつくのも、もはや越権行為。
結果次第である意味、首を覚悟してたんでしょうか?


責任や決定権をあたえられない人には普通不可能な独断行動。
しかし文体ではそうみえますが、
それぞれの立場、関係、実績、信頼、必然のすれ違いなど
これはうまくやればとてもしたたかに立ち回れる可能性があります。
少なくともゲームを100%ヒットさせるマーケティングよりは簡単かもしれません。



同時期に似たような記事を見つけました。

女子アナは置屋の芸妓と言った女子アナがいた - ハックルベリーに会いに行く
http://d.hatena.ne.jp/aureliano/20080620/1213933128


しかし、この計画はすぐに頓挫した。
ディレクターが、あまり良い顔をしなかったからである。
出演者打合せで、Aが何かアイデアを言おうものなら、
例えそれが面白いものであっても、いや面白いものだとしたらなおさら、
ディレクターはすごく嫌な顔をした。
ディレクターにとって、出演者というのは
一種ヒエラルキーの上位に位置するところがあったので、
例え同じ会社の後輩といえども、頭から否定するようなことはなかった。
けれど、とても面倒くさいという顔で、
そのアイデアをやんわりと拒絶するのだった。


それでAは、ディレクターというものは、
出演者からあれこれアイデアを出されるのは
あまり好まない人種なのだなというのを悟った。
アイデアを考えるのはディレクターの職域で、
そこに踏み込むのは一種の越権行為に当たるのだった。
それを、職業タレントから言われるのなら仕方ないが、
例え出演者とはいえ、同じ会社のしかも後輩からは言われたくないというわけだ。
それでAは、すぐさま方向を転換した。


Aは、出演者打合せでアイデアを提案することはなくなった。
その代わり、今度は収録の本番で、

そのアイデアをいきなりアドリブで実行するようになったのである。

出演者打合せでは
「ふんふん」「なるほどなるほど」「これはすごく面白いですね!」と、
とりあえずディレクターのアイデアを全肯定しておきながら、
しかしいざ本番が始まると、
要所で自分が考えたアイデアを織り込んだアドリブを、
遠慮会釈なく展開していったのだ。


すると、これが上手くいった。
Aは生来から度胸が良かったので、
確信犯的にくり広げるそのアドリブには一種独特のケレン味があった。
特に彼女は、例えアドリブをくり広げても、
自分が出しゃばるのではなく共演者を立たせることを目的としたものが多かったので、
一緒に出演していたタレントからはとても喜ばれた。


これに対し、ディレクターは当然良い顔をしなかった。
収録が終わると、小言の一つでも言ってやろうといつも待ちかまえていた。
しかしAは、そのことの対策をすでに考えていた。
Aは、番組収録直後の、まだタレントもいる雑談の場に積極的に参加し、
タレントに「Aちゃんのあのアドリブ良かったよ」などと言われようものなら、
すぐさま「いえ、あれはディレクターのアイデアなんですよ。
私はただそれを言わされただけです」と、しれっとした顔をして答えるのだった。
するとタレントは、今度は嬉しそうにディレクターの方を向き直り
「そうなのか! じゃああのアイデアはわざと隠しておいたんだな。やられたよ」
と満面の笑みで言うのだった。
そうなると、ディレクターとしてももうそれを否定するわけにはいかなかった。
そうして、「いや、すみません。その方が面白くなると思って」と、
ちょっとはにかみながら答えざるを得ないのだった。


これは効いた。
タレントにそう言われると、ディレクターとしても当然悪い気はしなかった。
その上、結果的に番組も面白くなり、
タレントも喜んでくれるのだから悪い話ではなかった。
Aの生意気なアドリブは鼻についたが、
それさえ目をつぶれば自分の株も上がるのだ。
これは決して悪い取引ではなかった。
それに、タレントに対して「自分のアイデアだった」と嘘をついてしまった以上、
もう後戻りもできなかった。


(略)


勢力を拡大していく中で、Aは、
「魅力とは何か」ということについても考えを深めるようになった。
というのも、Aのこのアドリブは、やってみて初めて分かったのだけれど、
魅力というものについての本質的な価値を含んでいたのである。


それは、それこそ置屋の芸妓ではないが、
従順なだけでは、旦那にとって魅力的ではない――
ということであった。
従順で素直なところを残しながらも、一方では生意気で小憎らしく、
なかなか素直には従わないところもあった方が、
プロデューサーやディレクターにとっては魅力的に映り、
結果、指名される確率も高くなるのだった。


いわゆる「かわいさ余って憎さ百倍」というやつだった。
そこでAは、自分のこの「可愛さ余って憎さ百倍」なところを
可能な限り前面に押し出していくことにした。
この施策は、ある種危険なタイトロープではあったものの、
しかしより強い存在、より強い女子アナを標榜していたAにとって、
それを取り入れない手はなかった。


それからAは、どんな現場でも「裏切る」ということを心懸けるようになった。
いわゆる「良い意味で裏切る」というやつだ。あるいは「予想外」。
女子アナの範疇から足を踏み出さないギリギリのところで、
プロデューサーやディレクター、
あるいはタレントの思惑を良い意味で裏切ろうとした。
良い意味でその予想を外そうとした。
するとそれは、絶大な効果を発揮した。
Aの人気は一気に上昇した。それは、テレビの前の視聴者以上に、
プロデューサーやディレクターから人気を博すようになった。


あるアナウンサーの強烈な戦略的成り上がりの一部ですが、
この越権行為の部分と、そこを立ちまわるしたたかさがとても印象的でした。


これらは強力な基礎技術力と、
その人なりの体系的哲学という土台がしっかりしてこその*1
立ち回りだと思いますが、どう考えても全員が死ぬようなマーチのルールを
「良い意味で裏切る」という選択肢があることを知るのは、
自分を信じる勇気と知恵じゃないかと思います。


しかし、それこそ妄想だ。
こんな決断普通の人はできない!!
という声が聞こえてきそうです。
はてなホットエントリーからひとつ補足を。




よくゲーム開発終盤であることなのですが、
どう考えても間に合わないスケジュールを全員がハイパーモードに入って
ありえないスピードでギリギリに間に合わすことがあります。
できるんだったら最初からこのスピードでやればいいものを、
なぜか締切がこないと神が降りてこない。

ほんとにヤバくなってギリギリになるまで相談しない人々: 切込隊長BLOG(ブログ) Lead‐off man's Blog
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2010/03/post-1da9.html


一方で、土壇場でないと力を発揮しない人もいる。
私もどっちかっていうとそっちのタイプだけど… 
でも、ここがギリギリという線を踏み越えてから対処するのは
だいたいコストが上がってしまっているので、
そうならないように予防線とか保険とかかけようとする。
で、往々にして予防線は簡単に突破される。

脳科学理論が解説。「集中力」が増す3つの仕かけ(プレジデント) - Yahoo!ニュース
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20100212-00000001-president-bus_all


脳には自己保存本能がある。
文字通り「自分を守りたい」という本能だ。
より根源的な脳の3つの本能、すなわち

「生きたい」
「知りたい」
「仲間になりたい」

のうち、(自分を守りたい、は)「生きたい」という本能から派生してくる、第二の本能である。


コツコツ努力するとは、一歩一歩着実に努力しようということであり、
この言葉の背後には、
「失敗しないよう慎重に事を運ぼう」という意識が隠れている。
失敗すると自己保存が危うくなる。
だから失敗しないように、コツコツやろうというわけだ。


自己保存本能は人間にとって大切なものだが、
「失敗するかもしれない」という否定語は、
この自己保存本能に過剰反応を起こさせて、
脳の働きにブレーキをかけてしまう。
それゆえ、コツコツやるという人は、
自分が現在持っている以上の力を発揮することが難しいのである。


反対に、とても到達できそうにない目的に向かって一気にかけ上がろうと考えると、
脳は信じられないほど高いパフォーマンスを示してくれる。
つまり、実際は長距離走の場合でも、
短距離走のつもりで全力疾走を繰り返すことで、
あるところから人間の能力はぐーっと伸びてくる。


そして一気、一気でダッシュを繰り返して、ふと気付くと、
到底超えられそうもなかった壁を突破しているものなのだ。
そんな人のことを世間は、異様な集中力を持った人と呼ぶ。


これはスポーツだけでなく、あらゆるジャンルに言えることだが、

人間は結果を求めると、持てる能力を十分に発揮することができなくなる。

スポーツで言えば、「敵に勝とう」と思った瞬間、能力にブレーキがかかってしまう。
なぜかと言えば、これは脳の持つ根源的な本能に反することだからだ。


結果を求めるあまり能力を発揮できない愚を避けるには、
目標達成の「仕方」にこだわるのがいい。
勝負に懸けるのではなく、達成の仕方に勝負を懸けるのだ。
そして、損得抜きの全力投球をする。


結果を求めず、達成の仕方に全力投球するとき、
人間は信じられない集中力を発揮する。
ポイントは、

「損得勘定抜きに」だ。

損得勘定とは、実は、結果を求める気持ちにほかならないからである。


そう、ここでも経営の矛盾とかぶります。
経営者は「失敗しないよう続編だけ作れ」と、開発者の能力を最低なものにし、
開発者は「締切がきたときだけ本気出す」という、両者とも
「自分を守りたい」という無意識の本能にしたがうばかりに
局地戦で勝ってるのに会社は潰れるという
矛盾しまくりの結果が導き出されます。


だからこそここでのコツは、

キーワードは

「リスクを考えないこと」

だという。
当時は次世代ゲーム機が発表された頃で、
「どの次世代ハードが勝つのか」が焦点となった。
まだ発売前の段階では、いくらデータを集めても絶対はないのだが、
経営側としては根拠のない冒険は見過ごせない。その状態でどう押し通すか。


稲船氏は「嘘をつくことも大切」とあっさり答えた。


ここだけ、「開発者が市場で最大限に能力を発揮するには?」という
目標達成の「仕方」にこだわるわけです。


カプコンは基礎体力を見直す点でもここを確実に押さえてます。

「Gamefest Japan 2008」セッションレポート カプコン竹内氏、世界で戦うための開発基盤作りを大いに語る
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080905/gf2.htm


「多くのユーザーを満足させる」ためには、
タイトルは世界最高水準の品質と、ユニークな内容を兼ね備える必要がある。
ユーザーの目が厳しいハイエンド市場では、類似品ではとても勝負できない。
したがって、まず始めに、強靭な開発プラットフォームを手に入れる必要があった。


そこで生まれたのが「MTフレームワーク」というわけだが、
この制作にあたっての目標設定が面白い。

「海外の最先端ミドルウェアに追いつくのではなく、飛び越してしまえ!」

というのだ。竹内氏に言わせれば、先を行く製品を追いかければ、
アキレスと亀のように、相手も前進するから永遠に追いつけない。
だから、一気に2手先、3手先へジャンプして勝負しようというのである。


当時のカプコンから考えると、どうがんばっても
欧米の洗練されたFPSエンジンに追いつくのすら無理があるのに
それを飛び越してしまえと言われると、
もはや努力だけでは到底ムリなので知恵を絞るしかない。
とても到達できそうにない目的に向かって一気にかけ上がろうと考えると、
スタッフは信じられないほど高いパフォーマンスを示してくれた、
というところでしょうか。
世界一を目指すならそれがきつくてもかなりワクワクしたかもしれません。


竹内氏だけでなく、稲船氏も学校講演会で似たようなこといってますね。

専門学校入学式で稲船氏が講演会 あの「ゾンビ」続編ネタも?/ゲーム情報ポータル:ジーパラドットコム
http://www.gpara.com/pickupnews/news/2007040501.php


「ご入学おめでとうございます。大変な課題をこなし、
夢に向かってがんばってください」
「入学のときは夢って言葉をよく使うと思います。
夢って言葉と目標という言葉は同じようで違う。
手に届きそうなものは目標といいます。
手に届くことを夢にしてしまうのは小さいと思います。
ゲームクリエイターになることを夢にしないでください。
なれることは目標として、
クリエイターになった後に、夢をもってください」

この辺はもはや共通哲学となってるのでしょうか。
こういった人間の本能の仕組みを知ってるだけでも、
スタッフ本来のパフォーマンスと成果が、経営に結びつく一助となるでしょう。





フラットなためにその3

カプコン経営側の記事と、チームの動き

カプコンの「新」アメーバ経営、ゲーム業界でヒット連発の秘密(1) | 企業戦略 | 投資・経済・ビジネスの東洋経済オンライン
https://www.toyokeizai.net/business/strategy/detail/AC/45da8ed11eecb4088bfa3154b41e7e7d/


ゲームソフトメーカーの場合、
一つのタイトルの開発に必要なスタッフの数は50〜100名程度といわれる。
タイトル(あるいはシリーズ)ごとにプロジェクトチームを構成するのが一般的で、
そのためメーカーごとのチーム数は「多くても30〜40チーム」
(白石幸毅・大和総研アナリスト)とされる。


これに対して、カプコンは
部門ごとの縦割り組織に横ぐしのプロジェクトチームを貫く、
いわゆるマトリックス組織を採用しているのだが、
異例なのは、そのチームが約120も存在していることだ。
チームはプログラマーやグラフィックデザイナーなどで構成する
10名未満の小さなユニットが中核で、
1人のスタッフが複数のチームに所属する。
この小チームがまさにアメーバのごとく、変幻自在に姿を変えるのだ。


120チームごとの採算 週次ベースで徹底管理


一つの作品が、どのようなチーム編成を経て育てられていくかを、
具体的に見ていこう(下図参照)。
(注、図はリンク先で見てください)
企画段階、まずはプロデューサー(開発責任者)を筆頭に
「開発チーム」で活動がスタートする。
企画書が開発会議などで承認を得られれば、
そこにマーケティングや営業スタッフを合流させ収益試算表を作成。
この試算表が経営陣に承認された時点で、
他の開発チームからのスタッフが段階的にプロジェクトに参画、
品質管理スタッフなども交え、100名規模のチームで本開発に突入する。


発売後に販売30万本を超えれば、コンテンツやモバイル部門のスタッフが加わり、
さらなる知名度アップを狙って映画やアニメ化などマルチメディア展開を模索する。
「バイオハザード」シリーズにおけるフルCG映像化
(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントとの共同制作)や、
イケメン武将が登場する「戦国BASARA」のアニメ・舞台化などが典型だ。



その後、大所帯に膨れ上がったチームはいったん解散する。
あるチームはパート2などシリーズ化開発に残り、
別のチームはもともと手掛けていた企画、
あるいはまったく別の企画開発に移っていく。
こうして、ヒットを生むための暗黙知が受け継がれていくのだ。




カプコンがこの新アメーバ経営を導入したのは、
硬直的な組織で経営難に陥った過去があるためだ。
かつては、縦割りの開発部門ごとに主要タイトルを展開する、
いわゆるカンパニー制を採用していた。
その結果「優秀なスタッフの取り合いが起こった」(小田民雄取締役)。
ある部門で人気シリーズを輩出しても、
セクショナリズムの横行で、ヒットのノウハウを組織全体で共有できなかった。
しだいにソフト事業が不振に陥り、さらに金融子会社の不良債権処理も重なって、
02年度と03年度は続けて最終赤字に転落している。


120チームとありますが、カプコンの年間発売タイトルは少ないです。
廉価版や携帯アプリを除き、
マルチタイトルを1つと数えると年に10本もないでしょうか?
http://www.capcom.co.jp/title_line_up/schedule.html


つまり、120チームの中から浮かび上がってくるタイトルへの選択と集中がすさまじい。
システム開発でいうなら「それはアジャイル的な」とも似てるかもしれませんね。*2
実はこのやり方、任天堂の開発スタイルに似ているんです。

4Gamer.net ― 【島国大和】「ハリウッド式」ゲーム制作について考える
http://www.4gamer.net/games/000/G000000/20091001062/


任天堂などは,表に出ているインタビューを見る限り,
プロトタイプを作って評価,その後に本制作に入る形が徹底されているようですし,
プロジェクトを途中でお蔵入りにすることも日常茶飯事のようです。


僕もよく「社長が訊く」を読んでますが、
どうもそんな体制の模様。


会社情報:社長が訊く リンク集
http://www.nintendo.co.jp/corporate/links/index.html
*3


すると以下の2つの点ですが、

1、経営と開発を分けて考えないフラットな組織への移行
2、越権行為を行う勇気と知恵

フラットな組織体系というのは任天堂も似ている。
このクオリティ2極化市場で、最高益を更新する大手もこの2社のみ。


さらにこの2社に似た勝ち組、、
僕が知ってる現在一番ベターな組織という生き物は、Googleです。
語弊ありで言えば
「管理職の存在しない超フラットな組織」
「その中の20%ルール」
もちろん大規模サーバーでWebサービスをやれってんじゃなく、
共通する哲学は規模の大小関わらず使えると言う意味で、です。


Googleの場合だと


20%ルールによる無数の開発チーム

社内β
評判よければ

Google Labs
http://www.googlelabs.com/
評判よければ

オープンベータ
評判よければ

大規模開発


という何層かのプロセスを通ります。
判断するのはマネージャーじゃなく、そこで使うユーザーたちそのものですね。

いいアジャイルと悪いアジャイル
http://www.aoky.net/articles/steve_yegge/good_agile_bad_agile.htm

  • 一種のマネージャはいるが、彼らのほとんどは少なくとも時間の半分は

コードを書くのに使っており、テクニカルリードに近い。

  • 開発者は、自分のチームやプロジェクトを、

いつでも好きなときに、何も聞かれることなく変えることができる。
ただそうすると言えば、運送屋がやってきて
翌日には新しいオフィスで新しいチームと働くことになる。

  • Googleには開発者に何をやれと言わない哲学があり、

開発者たちはそのことをとても重く受け止めている。

  • 開発者は20%の時間

(これは週末や個人の時間にということではなく、月-金、8-5時の間でということだ)を、
自分のメインのプロジェクト以外でやりたいことに使うよう強く促されている。

  • ミーティングがあまりない。

平均的な開発者はたぶん週に3回くらいのミーティングに参加し、
これには自分のチームのリーダーとの1対1のものも含まれる。

  • 静かである。

エンジニアは1人で、あるいは2-5人の小さなグループで、
静かに自分の仕事に集中している。

  • ガントチャートや、日/タスク/担当者が書かれたスプレッドシートや、

そのほか何であれ、目に見えるプロジェクト管理を示すものは見たことがない。

  • 比較的まれなクランチ期間においてさえ、みんなランチとディナーは食べにいき、

それは(良く知られている通り)いつも無料で美味だ。
そして自分でそうしたいというのでない限り、
ばかげたくらい長時間働くようなことはない。


どうしてこんなのが機能しうるのか?


私は何度もそう聞かれた。私自身聞いてみた。
エンジニアがみんなトラブルプロジェクトやバグだらけの
システムの運用の悪夢から逃げ出すのを止めるのは何か?
何でも好きなことをやれるというときに、
会社のゴールに向かってエンジニアを働き続けさせるものは何なのか?
どうやって最重要プロジェクトが適切に人員を確保できるようにしているのか?
エンジニアが太りすぎて戸口に引っかかり、
消防隊に救出してもらう羽目にならないのはなぜか?


最初に、そしておそらく最も重要なのは、
Googleがインセンティブで行動を促しているということだ。
重要なプロジェクトで働くエンジニアは、平均では、
重要性の低いプロジェクトで働くエンジニアよりも多くの報酬をもらう。
誰のためにも実用となりそうにない
突飛で研究的な類のプロジェクトで働くことを選ぶこともできるが、
その場合仕事は自分で報酬を生み出す必要がある。
あなたが正しくて他のみんなが間違っていたことが分ったなら
(これはスタートアップの夢だ)、
あなたの小さなプロジェクトはすごく大きなインパクトを持つようになり、
あなたはそのことで報われることになるだろう。間違いなく。


私は実のところ間違っていたかもしれない。
四半期の終わりに大きなスクリーンに自分の名前と写真が表示されるのは
最大のインセンティブでないかもしれない。
Googleで適切な行動を駆り立てるのは、他の何よりも、
他のすべてを組み合わせたよりも大きいのは、感謝の念だ。
Googleのために最善を尽くそうとせずにはいられない。
それほどまでに気遣ってくれる相手に対し、借りがあるように感じるのだ。

へ〜たのめも:Google のソフトウェア・エンジニアリング - livedoor Blog(ブログ)
http://blog.livedoor.jp/heitatta/archives/54439839.html


# プロジェクトはたくさんある。多分、エンジニアの数以上にある


# チームは少人数 (2〜6人)。これ以上に増えると、
プロジェクトのフォーカスを絞ってチームを分割


# イノベーション重視。
デザイン・フェーズで方向性が決まったら、さっさとコーディング


# プロジェクト立ち上げ時の 1〜2週間をかけて書く。
ある程度ポイントが書けたら、もうコーディングへ。


#シニア・エンジニアやフェローになると、もっと書いていて、
Google では、偉い人ほどコードを書きまくっている。


# 誰かが書いたコードは、必ず他の人にレビューを受ける。
開発者とレビューアーがお互いに合意した時点で、はじめてチェックイン


# レビューは 2種類。プロジェクト・オーナによるレビューと、
readability review (コーディング・スタイルを統一するためのレビュー)。
言語ごとにレビューアーがいて、
誰が書いても同じコーディング・スタイルになるようになっている


# リポジトリは世界で一つ。
チームごとにディレクトリを切ってあるが、全員が全てのコードを見ることができる。


#「創造的であるためには、情報は共有しなくてはならない」がモットー。
コミュニケーションは活発で、プロジェクト内はもちろん、
プロジェクト間の壁もあまり無い。


# 上から「何をやれ」というのはまったくない。
上司は「こういうプロジェクトがあるよ」とか
「これはこの人に聞けばいいよ」とかルーティングしてくれるだけ。
エンジニアの視点から見て詰まるところをうまくフォローしてくれるのが上司。


# 自分で改善すべき点を見つけて改善する。直すべきところを見つけて直す。
「でも、それ僕のプロジェクトじゃないから」はダメ。
不具合を報告するだけではなくパッチを書くことが推奨


# レビューが必須なので、個人プレイはダメ。チームでの活動が必須


# 変化についていく。Google 社内は変化が早い。
社内システムの入れ変わりも早い


ここで、20%ルールについて、、
というと耳タコな人も多いでしょうが
このルールの4つの心理面を指摘します。


一般に言う、
「アジャイル開発の促進」
「イノベーションジレンマの回避」は広く知られてますが、
これに加えて、普通は矛盾して回避不可能な
「パーキンソンの法則の回避」と
「(サンクコスト)埋没費用の確定」
の効果があるかもしれません。

イノベーションのジレンマ - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%AE%E3%82%B8%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%9E


イノベーションのジレンマ(英語:Innovator's Dilemma)とは、
優れた特色を持つ商品を売る巨大企業が、
その特色を改良する事のみに目を奪われ、
顧客の別の需要に目が届かず、
その商品より劣るが新たな特色を持つ商品を売り出し始めた
新興企業の前に力を失う理由を説明したマーケティングの理論。


日本企業の苦しみを25年前から味わっていたアメリカ企業 - My Life in MIT Sloan
http://blog.goo.ne.jp/mit_sloan/e/0d19edef63fbc07781d82a30609745e0


パーキンソンの法則から考えます。

パーキンソンの法則を回避

パーキンソンの法則 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%B3%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87

「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」


なお、同書で提唱された法則には
「組織はどうでもいい物事に対して、不釣り合いなほど重点を置く」
というものもあるが、
こちらは区別してパーキンソンの凡俗法則と呼ばれる。

ほんとにヤバくなってギリギリになるまで相談しない人々: 切込隊長BLOG(ブログ) Lead‐off man's Blog
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2010/03/post-1da9.html


個人でも「医者嫌い」に分類される
「どうしようもなくなってからでないと診断を受けたがらない人」
がいるけど、会社とかでも
「現金がなくなってから相談してくる企業」とか
「絶対納品守れない状況になってから報告してくる下請け」とかがある。困る。


一方で、土壇場でないと力を発揮しない人もいる。


で、往々にして予防線は簡単に突破される。
いつも予防線が突破されるので、
いずれにせよ年がら年中修羅場になってる。

(『自分を守りたい』とは)
「生きたい」という本能から派生してくる、第二の本能である。
背後には、「失敗しないよう慎重に事を運ぼう」という意識が隠れている。


みんな無意識で反応する、

自分の最大限の自己保存のためできるだけ動かず、
時間いっぱい完璧に安全にしあげよう。

だから、残業を認めれば残業時間を最大限に使って
完璧なものをより完璧に仕上げるまで使いつくす。


逆もまた真なり。
強制的に20%の時間を奪えば、その時間内に最大限の成果を果たす。
コンテンツクオリティは努力の時間ではなく、豊かな知恵の量で決まります。
努力する時間が短いほど、つまり締め切り間際の時こそ

全員誰に遠慮するひまもなく、

(失敗も慎重も完璧とかのリスクは考えず)
脳みそフル回転で知恵を出すしかなくなる。


最後まで確定できない(サンクコスト)埋没費用を早い段階で確定させる

埋没費用 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9F%8B%E6%B2%A1%E8%B2%BB%E7%94%A8


事業に投下した資金のうち、事業の撤退・縮小を行ったとしても回収できない費用をいう。



ある映画のチケットが1800円であるとする。
しかし映画が余りにもつまらない時、1800円払った映画を見るべきか、
それとも映画館を出て残りの時間を有効に使うかが問題となる。

映画を見るのを止めた場合:
チケット代1800円は失うが、残った時間を有効に使うことができる。
映画を見続けた場合:
チケット代1800円に加え、約2時間(上映時間)を失う。


この場合、チケット代1800円が埋没費用となる。
この埋没費用は、どの選択肢を選んだとしても回収できない費用である。
このとき、時間を浪費してまで、
つまらないと感じる映画を見続けることは経済学的に合理的な選択ではない。
一方、残りの上映時間を有効に使うことは合理的な選択であるといえる。



認識の困難さ


埋没費用の認識は難しい。
なぜなら、埋没費用を認めるということは、

すなわちそれまでに行った事業や投資などの失敗を認めることに他ならないからである。

事業の撤退・縮小を行ったとしても回収できない費用とはどこまでのことを指すのか、
一般的に言うことは困難である。


バカバカしいと思うかもしれないが、ホントにこれは困難。
映画が面白くないなんてどこで判断する?
序盤?
中盤?
最後にどんでん返しがあったら?
面白くなくても、その面白くないことを10年以上ネタに出来るかもしれないのに?


いつまでも会社が苦しいのは、
どうしようもならなくなる前に、
どうにかするには何を為すべきか、
きちんと考えることだと思うんだよね。
どうにもならなくなって増資、
駄目になりそうだから借入を繰り返していても、
いずれは疲れ果てた最後にすべてを失う羽目になる。
博打の場に座っていたいがために、
勝ち目のない勝負にチップを張り続けるみたいな。


サイコロ振って1が当たりとする。
5回振って全部ハズレ。
ここまでの掛け金は没収された。
この後、次のサイコロに1が来る確率は?


合理的判断では次も6分の1だ。
しかし、5回外れた奴は99%次は1がくると信じてる。
どこが失敗か、どこからが埋没費用かと言う線引きは
機械ででもあらかじめ決めとかない限り無理な話で、
ほとんど全てのプロジェクトにおいて
埋没費用がどこのラインかという線引きをせずに
つまり、

ここを割ったら残った可能性を破棄して少しでも時間と資金に戻す、

と言うことを宣言せずにプロジェクトスタートさせてるのが原因なのだ。



では埋没費用における、20%ルールの意味とは?



埋没費用は映画のチケットや、掛け金の大きな話だけではない。
毎日、私たちの全ての事柄で発生している。
そこで、「仕事における下位20%を自動的に切り捨て、新規プロジェクトに繰り上げる」。
すると、みんなが埋没費用である下位20%の可能性に時間代金を支払ってるのに対して
Googleだけが下位20%の時間代金を再び上位20%として使えるようになる。



なので20%ルールは普段から下位20%を確定させる癖や
判断力を磨くためによいルールだと思われる。
*4



僕が思う心理面での4つの効果はそういう考えだが、
100%の時間を使うのが正しいか、
20%の時間を新規に使うのが正しいかの線引きは
やはり人それぞれの価値観で違うのだろう。


それでも、
人間8時間も集中して働かないよね?w
もし8時間楽しんでたら埋没費用とはいえそうにないけど、
8時間義務でそこにいるのなら埋没費用かもしれない。





そして、

2、越権行為を行う勇気と知恵

これは、20%ルールがあれば勇気を出す必要はない。


このルールはボトムアップの企画かつアジャイル方式の開発なので
上からどうこういわれる事がトップダウン方式ほどないのだ。
カプコンもあれこれ上層部との対立を記事にかいてたけど、
現在120チームもあると言うことは、
まさか上層部から120ものプロジェクトが降りることはないので
ほとんどがボトムアップで発生したものではないだろうか?


だとしたら、カプコンはもう記事にある昔のような
経営と開発の対立は少ないかもしれない。
まだまだ試行錯誤ながらも、
開発者が最大の能力を発揮できるような現場を目指してるのだろう。



まとめてきな何か、、


改めて見直してみると、この記事のカプコンは
上で紹介した書、「ザ・ゴール2」のストーリーにものすごく似ている。
「全体最適化」の話なんだけど、
やはり赤字の会社が矛盾するボトルネックの解決に挑み、
自社の強みをどう強化するか?
その強みに絡めて、今度はどうマーケティングのボトルネック矛盾を解決するか?
と言うサクセスストーリーとだぶる。


部分最適化で局地戦だけしか勝てないやり方ではなく、
基礎力を上げるためのこれまで解決できなかった矛盾を解決して
エネルギーの流れがスムーズになった会社は
他社が同じコストで1回しかチャレンジできないところ
同じコストで10回もチャレンジできたりするぐらい
スタッフ間の相乗効果が違う。
水浸し当たり前の矛盾を諦めてる業界の中で、
水浸しにならないだけで出力は格段に上がる。*5
そのひとつひとつは天才でも魔法でもない。
みんなの能力をフルに発揮するため
先を示すビジョンや、根拠のない自信、ハッタリも必要。



そして規模は全く違うけど、現在の勝ち組に分類していい
カプコン、任天堂、Googleにみられるアジャイル的フラットな組織づくり。
*6
はたして普通の企業に真似できない哲学だろうか?


もし、彼らの哲学に通じるところがあり、
改革に乗り出しても、
その土台より上にあるボトルネックは企業により千差万別だろう。
その時はこの本が役に立つかもしれない。


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これは哲学がどうということはないが、
潰しても潰しても移り変わりゆくボトルネックを
なぜ?
なぜ?
と、しつこく追求していって会社を変えていく人たちの姿が書かれている。
仕上げにはこういう楽しい泥臭さもこなすつもりで、参考になるんじゃないかと思う。


カプコンの「新」アメーバ経営、ゲーム業界でヒット連発の秘密(1) | 企業戦略 | 投資・経済・ビジネスの東洋経済オンライン
https://www.toyokeizai.net/business/strategy/detail/AC/45da8ed11eecb4088bfa3154b41e7e7d/

「同様の経営手法を導入するメーカーが出てきている」

と前述の白石氏。


設立26年目、ヒット作連発で得た手応えと確信を、
次の成長ステージに生かしていけるだろうか。


同様の経営手法、、
パッと思いつくところで、
レイトン教授か?
イナズマイレブンか?


『イナズマイレブン2』に見る、レベルファイブの強み < ゲーム会社就職志望者のための就活支援サイト
http://www.flipflick.net/topics/topics4.html


『イナズマイレブン』で紐解くゲームプロモーション新展開・・・中村彰憲「ゲームビジネス新潮流」第6回 / GameBusiness.jp
http://www.gamebusiness.jp/article.php?id=1159&page=1



レベルファイブのメディアミックスは
きっちりポケモンを踏襲できるほど手堅くうまいので感心する。
レベルファイブの開発現場とかどうなってんだ?w


アメーバ経営に興味ある方はこちら。

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カプコンを変えた「安い、早い、美味い」の3原則と、その先にある「総合力」 - GAME Watch
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20090903_312660.html



また、カプコン自身の将来の展望についてはこう語っている。


「これからの5年、どうなっていくかを考えた時に、
カプコンではゲーム開発会社の組織として何が正解かはまだ見えていません。
それに、完璧な組織をお持ちの会社は
まだどこにも存在しないのではないかとも考えています。
ですから、ウチとしても、ゲーム会社として最適な組織体になるまで
どんどん変えていこうと思っています」。


竹内氏は

「変わることを止めれば死んでしまう」と、自社の体質を説明する。

現在、次なる開発組織改編の構想を練っており、今後そう遠くないうちに、
竹内氏の表現によれば「けったいな組織」を実現に移すそうだ。
具体的にどういった姿を目指しているかは、
竹内氏の口から表現されることはなかった。
しかし、そのヒントは講演の最後に示されている。


最後のスライドに自身の部署連絡先を表示した竹内氏。
「一緒に戦おう、と思った方がおられましたら是非私までご連絡ください。
『専門力』という武器をお持ちになった会社さんから順次受け付けておりますので」。
会場は爆笑と満場の拍手に包まれて、カプコン竹内氏による講演は終了した。


くしくもカプコンが赤字にあえいでる2003年に
essaさんはこんなエントリを書いてます。

金のためならなんでもやれ - アンカテ
http://d.hatena.ne.jp/essa/20030615/p2



欲に目がくらんで本当に金のために何でもやる奴なら、
今ならGoogleの真似をするしかない。


Google をやらない奴は、みんな金より優先するものを持っている。
部下を過労死させる経営者は、金を増やすことより、
特定のやり方で金を増やすことに執着している。
「金のためならなんでもやる」と豪語するなら、
金のためならなんでもやってみろ。
歯を食いしばってでも自分の嫉妬心を自分の金銭欲で押さえろ。
過労死するような部下はさっさと馘にしてしまえ。
どうせ労働法規を破るなら、そういう破り方をして今すぐGoogleをやれ。


しかし、彼らは金は増やしたいがどうしても別のやり方で増やしたいと言う。
部下の命より自分の金よりその特定のやり方が大事らしい。
何が特定のやり方に彼らを縛りつけるのか?
それは苦しいことを尊び楽しいことを憎む彼らの倫理だ。
またしても問題は倫理なのだ。


金の亡者が実は倫理に縛られているというこの皮肉。
労働者が資本家の倫理をぶち壊すために団結しなくてはならないというこの転倒。
倫理のために労働者は死に経営者は儲けそこなうというこの悲劇。

僕らは敵と戦ってるのか?
僕らは仲間と戦ってるのか?
最近は「自分の無知」と戦ってる気がする。






補足


まず引用記事から3つの基点に絞る。

1、経営と開発を分けて考えないフラットな組織への移行


2、越権行為を行う勇気


3、ヒットコンテンツを作る心構え*7


3つめ書いてませんが、もちろん埋没費用で計上してます('A`)
改めて新規記事として後日リンク予定。



書きました。
ヒットコンテンツを作る心構え - teruyastarはかく語りき
http://d.hatena.ne.jp/teruyastar/20100313/1268524284



動画見つけたので貼っときます。
http://www.dailymotion.com/swf/xagi2l
http://www.dailymotion.com/swf/xagi2a

*1:自分と他人に対する愛情がとても強いとも言える

*2:日本のSEはウォータフォール一辺倒みたいな話もききますが、、

*3:実はこの記事、「任天堂に学ぶデスマーチ脱却術」という構成も可能なのですが、不遇のゲームキューブ時代でも、ポケモン利益でびくともしない任天堂ではあまりにも共感されないので、赤字に至ったカプコンの方がまだ身近だと思いましたw

*4:まずこの長い記事の20%を切れよw

*5:本では「スループットを増やす」とある。

*6:任天堂の引用は少ないがこのブログの他記事ではいろいろ似た用なことかいてるので勘弁

*7:あくまで心構え