teruyastarはかく語りき

TVゲームを例に組織効率や人間関係を考える記事がメインのようだ。あと雑記。

電子書籍は文庫価格帯に落ち着くのでは

どんなに頑張っても、出版社は電子書籍の価格を防衛できない | fladdict
http://fladdict.net/blog/2012/10/book-get-cheaper.html


結局のところ、出版社の最大の敵は、同業者でもAmazonでも違法コピーでもない。

真に恐れるべきは、失うものもなく、利益も必要なく、面白いコンテンツを作れるプレイヤーが出版業界の外には存在する・・・ということだ。そして彼らには出版の慣習も、仁義も、同調圧力も意味を持たない。彼らこそが電子出版の最大の驚異だ。

売り上げを必要としない彼らが、書籍としての利益を無視したダンピングで、ランキング上位に参入するようになったら・・・はたして出版社は価格の維持をし続けることはできるのだろうか? 価格決定権は、みなが足並みを揃えなければ意味をなさない。

まだKindleは本と同じ価格帯みたいですね。


例に挙げられてる料理やPixv本は特定のジャンルすぎるので
ランキングはAmazon側のカテゴリ分けやアルゴリズム次第でなんとでもなるけど
この場合、本職で食ってるのでとくに利益を必要としない
ニコニコに投稿する野生のプロや同人作家ですね。

野生のプロは大手が引き抜く

そこでヒット作れる人なら引き抜けばいいかと。
利益を求めてない人でも当然
「多くの人に読んでもらいたい」という気持ちはあるはずで
出版社側に宣伝してもっとたくさんの人に読んでもらう意義がある。

また、メディアミックスで自分の作品が
アニメやドラマや映画やゲームになるのが嬉しい人もいるでしょう。
出版社側はその辺のパイプを持ってるわけで。

スマホのアプリ/ゲーム業界では切り売りは力を失い、囲い込み課金が主流となった。音楽業界も販売からコンサートや興行へと模索を始めている。 映像も今や定額課金だ。電子化によって生産複製流通コストが0に近づくなか、出版社だけが例外的に価格維持を可能とするロジックを、僕は見つける事ができない。

この辺、本は例外にあたりそうなところをいくつか。

本は囲い込み課金できない

ゲームのソーシャル化は能動的にプレイできるメディアゆえ、
ゲーム内課金ができるから切り売りよりも当たればでかいわけで
音楽も、映画も、本も受動的メディアでは無理。

コンサート興行もできない

それこそ最前線で坂本真綾の朗読会とかあったので、
できないわけでもないですが、まあ主流にはならないでしょう。


坂本真綾の満月朗読館』 | 最前線
http://sai-zen-sen.jp/special/roudokukan/

本は定額課金に向かない

1冊2時間以内で読める人が圧倒的に少いなから。
映画やTVに比べると手軽ではない。


速読、多読ができる人には向いてそうですけど
そうじゃない人に月に何冊の本が読めるのかというと
大人には仕事、学生には勉強があるので
5冊もいかないんじゃないでしょうか?

ここで出版社数社限定の定額サービスが出たとしても、
カジュアルに本を読まない層は元が取りづらく
多読な人にはお得で本の売上が落ちる事になりかねません。


huluなどへ映画を配給してる会社は、シリーズ前作を流すことによって
「どうせならもっとでかい映画のスクリーンで見たい」
という欲求を掘り起こして映画で稼ぐことも計算に入ってると思いますが
やはり興行のない「本」はそれも出来ません。


本が例外にあたるという理由は結局

読むのに時間がかかる

ということに尽きそうです。

読むのに時間が掛かる分の価格は維持される


1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編 (新潮文庫)

今「1Q84」が620円だから、
じゃあこれが最初から200円だったら3倍売れたかというとそうじゃないでしょう。
1.5倍も難しいんじゃないでしょうか。

利益が3分の1じゃなく、ロイヤリティや固定費など考えると
利益は10分の1にもなりかねませんがそれに x1.5 では報われない。

むしろ読者は読む時間を投資する負担の方が大きく
ここに620円と200円にはほとんど違いがなくて
違いがでるのはこれがほんとに宣伝として「0円」になった時でしょう。

個人出版が低品質の小説を100円で売っても買う人ほとんどいないでしょ。
2000円以上の価値がある小説を700円とかの文庫価格で売るから
たくさんの層に売れるわけで。



佐藤秀峰 日記 | 漫画 on Web
「ブラよろ」二次利用フリーにしたらすごいことになったよ報告。
http://mangaonweb.com/creatorDiarypage.do?cn=1&dn=34674

もちろん「ブラよろ」は宣伝として使ってるので意図が違います。
でも長いシリーズ物は「1巻だけ無料」がちらほら出てきてますね。


そして
電子書籍も文庫価格の500円から700円あたりで動かないんじゃないでしょうか。

電子書籍にはハードカバーの意味がないので、
出版社の価格決定から関係ない本も、
文庫価格がバリューゾーンとして定着するんじゃないかと考えます。


ただこれは読むのに時間がかかる「小説」の話ですね。
読むのにもっと手軽な「漫画」だとどうでしょう?

「漫画」は定額サービスにできそう

元々、ジャンプ最盛期は600万部あったわけですから、
これは集英社1社で600万人以上の定額サービスを行ってたわけですよね。
(4週x200円として月1000円以上)

小説よりもずっと手軽に読めるため、
コンテンツ消費量は何倍にもできるけど
それだとお財布の中身が追いつかないので
最大限の収益バランスを取るための定額サービスはありだと思います。
知られてない漫画家さんにもチャンス増えますしね。

でも電子書籍時代だと、1社じゃなく
ジャンプ、マガジン、サンデー、チャンピオン、ガンガンとか
アプリまたぐのはめんどくさすぎるので
全部まとめた定額サービスが欲しいですよね。

元々物理的な漫画雑誌発行は売るほど赤字の宣伝材料で
コミックス回収モデルなんだから
最新1週間だけ全社読める1000円と。
連載中の漫画を第一話から全部読めるプレミア会員が2500円とかで。

少年誌系のサービスと、青年誌系で分けると嬉しい。*1

「小説」のキャンペーン価格が発生する

id:fladdict さんの話を細かく言うとこうかと。


読むのに時間が掛かる「小説」はそもそも
市場の読書量限界というパイが決まってるわけです。

でもこれは昔のプレステのゲームなんかもっとひどくて、
クリアに40時間かかるようなゲームが週に何本も発売されて
どんなヘビーゲーマーでも
好きなタイトル全部プレイできる環境ではありませんでした。


プレイできる時間がないのにミリオンソフトが連発してたのは、
「今買わないと手に入らないかもしれない」
という最後までプレイしてなくても
「いつかクリアするつもり」の「積みゲー
が大量発生してたからです。*2


で、今のスマホアプリなんかでよく「キャンペーン価格」をやってるのは
無料のものはランキングを上げたいという意図があるんでしょうけど
値段を期間中下げただけのはその「積みゲー」化を狙ってる意図もあります。
「今プレイする時間はないけどいつかやる、使うつもりだから
安くなった今のうちに買っとく」

という本来なかった「つもり市場」が発生します。


本だと「積ん読」と言うんでしょうか。
どこの本屋で買っても価格統一の再販制度を敷いてる出版社からは
小説のキャンペーン価格なんてできないでしょうが、
個人電子出版だと多分やれちゃうんですね。


「もしかして今しか買えない本」が電子化で「いつでも買える本」になった時
積ん読市場」は「キャンペーン価格」で開拓するものに変わります。
最初は個人出版から、そしていずれ大手出版も再販制度を見なおして
キャンペーン価格に手を出すことになったら、
(文庫本のバリュー価格帯は変わらなくても)
本全体の平均価格は下がりそうです。


Kindle Paperwhite

Kindleマーケットはなんか、koboより使いやすそうで悔しいですね。
日本がITで負けっぱなしにならないよう、
そろそろ世代交代の時期だなと自覚する人が増えてる気がします。

*1:それには見開きの描き込みに耐える電子書籍の進化か、漫画の描き方を端末に合わせるかがまず必要なんだろうけど。

*2:大前提に魅力的なソフトがたくさん出てたこともありますが。