という仮説。
100人のゲーマーがいるとする。
(1) 1人がゲームをプレーし、99人がその配信を見ている。
(2) 100人がゲームをプレーし、中には配信している人もいるが、視聴者は0人。
2つの状況のうち、「ゲーマー文化」にとって望ましいのはどっちだろうか。
たとえば、昔なら1人でも延々とゲームをプレーしていたのに、徐々に配信を視聴するだけで満足するようになってプレー時間が減った人はいるだろう。
そこまでいかなくても、配信の上級者や人気者と自分を比べて劣等感を感じたり、自分でゲームをプレーするモチベーションが落ちた経験は、ほぼ全員にあるんじゃないだろうか。
Twitchがゲーマー文化の救世主になる可能性もあるけれど、結果的に死神になってしまう可能性も余裕である。
うん、私の体感だけど、今は本当にゲームを「遊ぶ」ものでなく、動画や配信で「観る」ものだと考えてる人が多い。
例えば、今SNSなど各地で話題沸騰のマゾゲー『Getting Over It with Bennett Foddy』というタイトルは、販売数37万本(2017/12/29時点)に対し、Youtubeで軽く検索しただけでも、Pewdiepieが490万再生、他のYoutuberも何百万再生と稼いでいる。いかに実際に売れた本数に対して、動画などで「観た」瞬間にそのゲームを消費した人が多いか、という話だ。
この流れの問題は、ゲームを本当に「観る」だけで消費してしまう文化が生まれつつあることである。動画をきっかけにゲームを初めてくれればいいけど、今では動画だけで完結してしまう人も少なくない。
例えば、本当に1ヶ月に1本も遊ばないけど、ゲーム実況動画や配信は一日に何本も見ますよ、という人は私の身近にもいる。この記事を書いた八木葱さんは『LoL』の競技シーンをよく記事にしているけど、特にこうしたハードな対人ゲームではこの傾向は一層強いだろう。
ゲーム動画を見て、全てと言わないでも、興味を持ったゲームを実際に購入して遊んでくれれば、「ゲームを観る」行為は自然に感じられるが、果たして「観る」ことで完結してしまっては、一体ゲームはどうなってしまうのか。
お二人とも、プレイ時間より観戦時間の人が多くなるのを実感していて、そもそもプレイ時間0の人も多くなり、ゲーム文化が衰退する可能性を心配しています。で、実は元々「観るだけ」という需要の方が多いのではという論を書いてみます。
確かにTwitch見てる時間だけ、ゲームをプレイする時間は減った
Twitchなどによるゲーム配信文化は、これまで未開拓地だった市場が今まさに拡大している状況。これはお二方ゲーマーサイドから見ると相対的に「時間がなくて観る側に回った人」や「観る時間が増えた人」「ゲーム実況配信は観るけどゲームしない人」が目についてどんどんプレイ側の時間や人口が削られてるように見えるかと思います。
そもそも動画配信なんかなかった頃はゲームの話ができるコミュニティは100:0でみんなプレイヤーだったわけですしね。
ゲームプレイを共有したいという大きな需要はずっとあった
でもそういう需要は元々あったんですよね。アーケードでストIIを後ろから見てるだけで楽しんでた人や、コンシューマーでお兄ちゃんのプレイ見てるだけで楽しんでた人とか。
また2000年頃にファミ通WaveDVD(GameWaveDVD)というDVD付きゲーム誌が発売され、この中で読者からの「スーパープレイ動画投稿」が人気でした。
こういったこれまで可視化されてなかった「観戦者」が、動画配信の登場によって観測できるようになって、実はゲームプレイ人口より大きいのでは?
ゲームセンターCXのヒットが2003年
有野課長がど下手なプレイを実況配信する人気番組ゲームセンターCXは、2003年スタートなのでYoutubeが生まれる3年前に掘り起こされている。そのYoutubeに生配信機能がついたり、広告収入が入るようになったり、Youtuberが生まれたり、ゲーム実況が花開いたりするまで10年は先を行ってたわけです。
ゲームもプレイヤーより潜在的観戦者のほうが圧倒的に多いのではないか?
たぶん高校野球に関わる人と似たような構造がゲームにもあると思うんですよね。大会に出るプレイヤー、下級生の二軍、三軍やコーチとマネージャー。それを応援する応援団や、吹奏楽部。親御さん達。地方大会では学生や女生徒ファンなど応援する人が増え、甲子園にでたら都道府県全体で観戦者がどっと増える。
ゲームも配信者の人気や大会の規模により、もともとプレイヤーより観戦者の方が多いピラミッド構造が成り立つのがゲームなんじゃないかと。今までそういう環境が整ってなかっただけで。
プレイヤーと観戦者が逆転してしまうと、ゲームの売上が下がってメーカーが潰れる?
これも僕は観戦者増えるほど当然売上が上がると考えます。TOP100のゲーマー層から見ると、配信視聴という新しい文化にまわりのTOPゲーマーも可処分時間が取られて、プレイ時間が減ってるうえに、ピラミッドの下なんか見るとそもそもプレイ時間ゼロの人も多いじゃないかと。でもそれは可処分時間のほとんどをゲームプレイに費やしてきたガチゲーマーの視点だと思うのですよ。
ピラミッドの下の人達、配信見るだけの人達は「そもそもゲームをプレイしない人」や「忙しくてゲームを卒業した人」であって、仕事やSNSや他の趣味に時間を費やしてたところに、スキマ時間にゲーム配信視聴を選んだ人達。視聴だけとはいえ人生にゲームが食い込んできた人達です。子供の頃ゲームやってて今は忙しくてやってなかったけど視聴し始めた人なんかは再び人生にゲームが関わってきたところ。そうやって裾野が広がってる最中ではないかと。
Getting Overは膨大な再生数のわりに売れなかったのか?
例えば上記の例でいう「Getting Over...」はゲーム配信者の頂点Pewdiepieで490万再生なので、全体で数千万以上の再生数は稼いでると思いますが、売上わずか37万本。どんなゲームかというと、、
www.youtube.comプレイしてる人には苦行でしか無いクソゲーです。クソゲーという表現はともかくニュアンス的には近いものがあるでしょう。ミスしなければ5分でクリアできるゲームらしいですが、何十時間かけてもクリアできないぐらい高い難易度です。
でもこのゲーム、もし視聴者無しで延々と1人でプレイするだけなら全世界で1万本も売れないと思うんですよね。ペルソナ5が200万本(日本50万、海外150万)でJRPGとして大ヒットであれば、Getting Overは本来1万本も売れるはずないクソゲーなのに実況配信のお陰で37万本も売れた大ヒットではないだろうか、というのが僕の認識です。
動画再生数に対してどれぐらいゲームが売れるか?
仮にGetting Overが総勢3700万再生ぐらいされたとすると、490万再生のPewdiepieが4万9千本売って、他の配信者が30万本以上売った感じでしょうか。100人面白がってもらえたら1人買ってくれる計算。
実際は再生数も、のべ人数で同じ人が同じゲームの動画を見てたりするので、売れていくほど再生数が必要で、最初は100再生で1本が、100万本突破したら1000再生で1本、1000万本超えたら1万再生で1本とか指数関数的に上がっていくでしょうが、そのゲームが持つポテンシャル上限までは動画配信の恩恵を受けると思われます。
TwitchやYoutubeがない時代ではOverWatchやPUBGは3000万アカウント取れなかった
この2作はともに3000万アカウント突破してますが、検索すると膨大な解説や、名(迷)試合がアップされてます。OverWatchと検索するだけで550万動画がヒットしてるので、再生数に至っては計り知れないですね。もしTwitchやYoutubeのない時代であったらOverWatchはMOBA系FPSの前身であるTeamfortress2の倍程度でFPS界隈での名作という扱いで終わってたかもしれません。
今まで見たPUBGの動画で一番笑ったからみんなにも見てほしい pic.twitter.com/TwDojdDRNv
— ˙˚ʚ熱ɞ˚˙ (@fly_away_777) 2017年5月19日
OverWatchもPUBGもこのStylishNoobという人気実況者が日本での大ヒットを一部牽引してきました。これらのタイトルはどれも動画配信という今の時代でなければ3000万というヒットには繋がらなかったかと思います。
他、懸念点について
そして、ゲーム自体の方向性も変わっていくかもしれない。今はYoutube映えSNS映えしなければ売れないとパブリッシャーが判断すれば、プレイヤーよりも動画の視聴者に向けて、もっとキャッチーで、奇抜で、女性や子供も喜ぶデザインに修正しよう、という流れになっても不思議ではない。
これは別に配信がなくてもソシャゲとかアプリがそうなってますね。でもみんなが大衆受けしようとレッドオーシャンになってるので、Getting Overみたいな隙間を狙ったり結局多様性や差別化に向かってるので大丈夫かと。宮﨑アニメや新海誠の「君の名は」が大ヒットしたからといって日本のアニメがそれ一色にならないですしね。
それに、例えば操作性やUI、細かな設定、ロード時間などは、動画に一切関係しない。仮に今以上に観るだけで消化する人が増えれば、これらはなおざりにされるだろう。
人気Youtuberなどは短い時間で見れるよう「テンポの良いカット割り」にものすごくこだわってます。ゲーム実況でも「長いロード」「長いマッチング時間」のタイトルは嫌われます。
ゲーム動画はそれだけで宣伝になるので見てる人が「自分にもできそう」と思ってもらうためにも、操作性やUIはむしろ動画内で洗練されてる必要があります。売れるゲームもソシャゲ関連も相当洗練されてますし、この辺は動画の影響で良くなることはあっても悪くなることはないかと。
「見る専」が増えるほど、プレイヤーも増える
Twitchがゲーマー文化をすっかり塗りかえてしまう前に - 葱と鴨。
大多数が「見る専」になる未来は楽しいか
もしこのゲーマー文化の進化の先にあるのが、野球やサッカーのような「少数の人がプレーするのを大多数の人が『見る専』として視聴する」形だとしたら、それはあんまり楽しくない未来だと思う。「見る専」はもちろんゲーマー文化の大切な一部だけど、真ん中にはやっぱりプレーヤーがいないと始まらない。
(中略)
ゲーマー文化がすっかり塗りかえられた後に、「こんなはずじゃなかった」とゲーマーとTwitchが一緒に頭を抱えるのは、誰にとっても幸せじゃないのだから。
いつからゲームは「遊ぶ」のでなく「観る」ものになったか - ゲーマー日日新聞
けれど、自信を持って言えることは、やっぱりゲームは自分で遊ばないと何も面白くないということ。何か事情があるならともかく、なんとなく面倒程度の理由なら、本当に勿体無い。
本当なら遊んで感動して、自分の記憶に刻まれたであろう名作を、無意識のうちに動画で消費しきってしまう、それは悲劇だと私は思う。
お二人とも「観るだけ」より「プレイの楽しさを実感して欲しい」ことを強調していますが、僕はやはりアーケード格闘ゲームを後ろから見るだけの人や、お兄ちゃんのプレイを横で見てる人などこれまで可視化されてこなかった「見る専」という大きな裾野が元からあって、「見る専」が増えるほど「参加」してくる人が増え、ゲーム業界が問題視するほどプレイヤーバランスが崩れることはないと思います。
観るだけじゃなく、全員プレイして感動を味わって欲しいというのはゲームを愛するがゆえのエゴだと将来は言われるかもしれません。
プレイヤーより観戦者が多いのが実は正常で、まずタイトルを知ってる人が多くなるという状況こそがヒットゲームになるため重要。メーカーはそのためときに開発費並の広告費をつぎ込むタイトルもあるぐらいですから、ネタバレさえしなければゲーム実況は大歓迎じゃないでしょうか。
また実況配信により、プロゲーマーや、ゲーム実況者として食っていける人が増えているのも「見る専」が増えるほど彼らの活躍の場が広がり高額報酬になり、それを目指す子供が増えて好循環です。
このゲームをプレイしたいと思わせたらチャンス
Twitch、Youtube、ニコ動、OPENRECと環境が整ってきて、これからますます「見る専」は増えるでしょうけど、メーカーも馬鹿じゃないので見てる人もみんなで楽しめて、「配信を観ながら自分も同じタイミングでゲームに参加する」とか「運が良ければ自分でも勝てるかも!」と思わせるゲームを作りはじめるかもしれません。*1 後にPUBGがそういう配信前提の条件を満たした初期のゲームといわれるでしょうか。
メーカーはさらに「気軽に配信者主催のトーナメント開催できるシステム」とか「ランクとは関係なく配信者とマッチングできるシステム」を途中抜け、途中参加ありで、参加者を待たせないかなり融通きくマッチングシステムなんか作ると、人気配信者見てゲームのシステムや流れを覚えた「見る専」がその場でゲームを購入して参加したりするかもしれません。
ゲームの場をまず共有し、次に参加していく
映画を見るのだって1人で満足するというよりは、映画館で場を共有するとか、その映画について語り合うとか、コンテンツそのものを通して共有していくことでより楽しくなります。例えひとりでもくもくと山を登るだけのGetting Overだって場を共有することで何倍も面白くなるわけですし、ゲーム文化は最初に「見て楽しい」「参加するともっと楽しい」という流れで、Twitchは好循環を生むのではないかと僕は楽観的にみてます。
*1:前者はスナイプという行為で流行ってます。良くも悪くも。。