teruyastarはかく語りき

TVゲームを例に組織効率や人間関係を考える記事がメインのようだ。あと雑記。

10年前の送りバント議論の整理

logmi.jp

www.nikkei.com


上の記事ですが、10年前の送りバント記事を整理してくれそうです。僕のは野球見ない素人の印象論だったので、このブログで一番炎上した記事となりました。

teruyastar.hatenablog.com
記事で僕の意見は
「どうしても1点欲しいときもヒッティングしたほうがよい。」
「ただし、守備配置を限定されないようバントもあると思わせるぐらいには必要。」

コメントで議論重ねてるうちに何度も再追記して読みにくいですが、途中ですでにマネーボールという先行研究があることも教えてもらいました。(結局本買ってないけど)

今回の「なういず」さんの解説にもたくさんの反論コメントがありそれを整理してみます。


「これの何が間違ってるかというと守備側の心理がゴッソリ抜けてること。1本のヒットで1点となると守備陣はエラーできないし投手は甘く投げられない。そういうプレッシャーにHP削られて失敗したり後半崩れたりするの。」

これはさんざんブコメで突っ込まれてますが、「得点確率」と「期待得点」の「統計結果」なので、2塁ランナーのプレッシャー込みで出てきたデータとなります。


「栗山英樹は監督になる前に「野球の無死1塁で用いられる送りバント作戦の効果について」って共同論文でバントの効果に一石を投じてるんやで。ちなみに栗山ハムが優勝した年はリーグでぶっちぎりでバントしてるけど。」

栗山英樹 論文

https://jcoachings.jp/jcoachings2012/wp-content/uploads/2016/03/a55af3f67100d72b362103e41eacc36a.pdf

栗山監督の論文も、まとめは送りバントはどんな状況でも得点確率低く期待できないとありますね。

でもこの論文を出した後、すぐ監督になって優勝なんで、そこでほんとに(1-2塁間の)送りバント多用してたなら面白い。論文を読んだ他の監督が「栗山監督は送りバントしてこないぞ!」と裏をかかれたんでしょうか?

栗山英樹 - Wikipedia

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「1点の価値が高い試合が多い」

得点確率は40パーセントから39パーセントに下がり、期待得点は0.81点から0.68点に下がります。

どうしても1点が欲しいときでも、ヒッティングしたほうが1%確率上がります。



「1%なんて誤差」

期待得点差が0.13。13%の上昇。
1塁走者と2人合わせて打率が1割3分上がる、と考えると結構違うのではないでしょうか?


どうしても1点だけ欲しいときでも、ヒッティングしたほうが1%確率上がり、
加えて2点以上や、大量得点狙う期待得点上がり、
「アウトにならないチャンス」が大きくなります。

しかし、

現状1試合あたりの送りバントの数を比べてみると近年は微妙に減っているものの、それでも1試合あたり0.8本とかなりの送りバントの数が見られています。

1試合平均0.8本。
思ったより全然少ないですね。
1試合両チーム合わせて0.8ですから、1チーム0.4。チーム単位ではバント使わない試合の方が多そうです。

この回数なら1試合中の期待得点差も 0.13x0.8 で 0.1点差。
「バントもあるよ」と思わせる「奇策」としては充分で、誤差の範囲に収まりそうです。

10年前に言及したときは、甲子園の高校野球の話だったので当時1チームで5回も10回もバント多用するチームは多く、減らす意味はあったと思いますが。



「全選手の能力が同じではない。打率低い9番なら有効。バントを選ぶのは「打てない投手」の時。」

結果だけ申し上げますと打率が1割3厘より低い選手は送りバントが有効。2019年の野手の中で1割3厘より低い選手はいない。

とのことです。

論文まとめでも

(5)
同じ「送りバント」でも,上位チームが下位チームに対して行う場合の走者生還率は42.1%,下位チームが上位チームに対して行う場合は30.5%となっている.

下位チームの場合の走者生還率30.5%は「ヒッティング」時の走者生還率より小さい値であり,上位チームに対する時の「送りバント」が不利を増長することがわかった.

と、「弱いからバントで確実に」は逆効果となります。結局送ったところで強いチーム相手には後続が続かないうえ、強いチームは送りバントを打ち取る技術も強いため、ヒッティングを狙っていくほうが得点確率は高そうです。



「ヒッティングで1アウト二塁以上の状況に持っていく確率は4割以下でしょ。1アウト取られても得点確率が1%しか減らないなら一点取りに行くめっさ有効な手やないの?

論文のまとめですが

(1)
1塁走者の2塁への進塁確率は「送りバント」の時(81.6%)が最大で,最小の「ヒッティング」(40.7%)の約2倍だが,生還確率を見るとどの作戦の場合も40%前後で大きな差はなかった。

送りバントの進塁確率がちょうど倍なのはわかりやすい。生還確率が40%前後で大きな差はない(1%しか減らない?)というのは、ほんと野球ってよく出来てますね。

僕はこの論文見るまで、送りバントは98%ぐらい決まるのかと思ってたのですが、5回に1回はアウトだけじゃなく送ることすら失敗するんですね。反論する人も送りバントはアウトを犠牲にほぼ確実に2塁に進塁できるという前提だったんじゃないでしょうか?

1塁走者の生還確率が変わらないのに、期待得点が13%違うというのはヒッティングでそのままランナー1,2塁となることがあって、元の1塁走者がアウトになっても、次の走者が帰る確率があるということでしょうか?


「トーナメント1回勝負の高校野球だと変わるのか?」

どうしても1点欲しいときでも送りバントがわずかに不利ですから基本やらない方がいいのですが。

10年前の記事の追記で引用したデータです。
どうも引用先ブログが作家さんになったとき過去記事全部消してしまったのでややこしいのですが、掘り起こしは自由ということなので。

高校野球のセオリーを検証する本 - 俺の邪悪なメモ
http://d.hatena.ne.jp/tsumiyama/20100816/p1

 

本書は2005年夏から2007年春までの4大会のデータを基に、
様々な高校野球のセオリーを検証したもの。

「ノーアウト1塁」の状況で
送りバントをした場合の得点率は38.0%
強攻策をとった場合の得点率も38.0%

バントでも強攻策でも得点率は全く同じなのでした。


ただしアウトを1つ取られた「1アウト1塁」の状況では、
送りバントをした場合の得点率は24.6%
強攻策を取った場合の得点率は32.8%

となり、明らかにバントをした場合の得点率が下がります。

 

わずか4大会の集計ですがプロが40%と39%に対して、高校野球も38% 38%と1点を取るだけならプロとほぼ同じ数字ですね。とすればヒッティングの期待得点も同じように13%近く上がりそうです。


高校野球の甲子園大会は投手にしろ打者にしろ、実力の開きが大きく、すごい点差が開く試合も多い印象で、違ったデータが出てくるかなと思ってたからむしろ意外でした。


「メジャーリーグはどうなのか?」

sports.yahoo.co.jp

news.yahoo.co.jp
毎年減っていって
「2017年 1試合平均0.19」

セイバーメトリクスの影響が大きいみたいで、日本の0.8より全然低いですね。
もはやバントの練習すらしない選手もいるのか、、、

「なういず」さんが「減らないのはなぜか?」と言ってたところに引っかかってたのですが、メジャーと日本を比べてたのかもしれませんね。

「バントで優勝した日本ハムは?」

論文出した上でバントで優勝した栗山監督ではなく、それより前に優勝したヒルマン監督が興味深い発言をしています。

news.yahoo.co.jp

同監督は、日本に来てからもあまりバントのサインを出さなかったという。1年目の2003年はチーム合計で67犠打、2年目の2004年は51犠打、3年目の2005年も54犠打に過ぎなかった。

だが、いつしか走者をキッチリと送るべき場面でバントをさせないと、チームが盛り上がらないことに気付いたのだという。

4年目の2006年、方針を変えたヒルマン監督の下、日本ハムはリーグ最多の133犠打を記録。この年、見事にリーグ優勝を飾り、日本シリーズでも中日ドラゴンズを破って44年ぶりの日本一に輝いたのである。


敵の心理ではなく、味方チームの心理に影響する?
ソフトバンクもバント多くて優勝してるようですね。

セイバーメトリクスの統計なんか信じない選手が多いと「なんであと1点てときにバントしないんだよ? 冗談じゃねえぞ!」と監督に不信感をもったり、集中力を欠いたりするということでしょうか?

もしそうなら、確率や統計のセイバーメトリクスを信じる選手が増えてくると違ったりしますかね?

反論には守備側の心理に影響するというコメントもありましたが、
「送りバントで2塁の得点圏内にきたか。これはかなりきついな、、、」とプレッシャー受ける投手と、「送りバントでワンアウトくれるの? ラッキー!」と考える投手でまた違ってくるかもしれません。


「犠牲バント」と「繋ぐ野球」


ここまで引用した記事の中で2つの単語が気になりました。
体育会系の野球部で育った選手は「自己犠牲」で「仲間に繋ぐ」というシチュエーションがすごく好きなんではないかと。

体育会系の会社でも、お客や上司、仲間のためなら「自己犠牲の残業」も「みんな帰らない」も大好きですよね。効率の良し悪し以前に一体感がでるというか。ハードワークこそ得られるものがあると。欧米からしたらそんなふうに手段が目的化してるから生産性低いんだよと言われそうですが、日本は効率で動いても一体感でないのかもしれません。

 

number.bunshun.jp
高校野球も2年4ヶ月ずっとハードワーク。しかしとある例では、コロナの自粛期間ができたことで今までにないプラスの効果が見られたそうです。こちらは統計データではないので検証が必要でしょう。日本人が上司や周りの目を気にせず5時に帰るような個人主義文化に染まっていくと、野球のあり方も変わっていくかもしれませんね。



「まとめ」

バントは1点取るにもわずかに不利となるため多用は禁物。
現状1試合1回未満のプロは問題ないように思える。

近年でバント多用するチームが優勝するのは「選手達が確率や統計より眼の前の期待値上げたがってるか」「自己犠牲で繋ぐ野球で盛り上がれるか」あたりが鍵となりそうです。熱い体育会系ほど送りバントの方が0.13を超えるほど士気があがり、ドライで感情に調子を左右されないチームならバントに頼らないほうがいいかもしれません。(そんなクールなチームは漫画にしかいそうにないですが、選手がみんな熱くて仲がいい関係とも限らないですし)

これを研究するには、送りバントの「得点確率」と「期待得点」ではなく、「送りバントの企画数」と「試合の勝敗」の相関関係というかなりアバウトな統計がまず欲しいところ。

日本の野球を研究する人たちが、実はセイバーメトリクスの送りバント理論は間違ってたんだよと、また10年後に証明してくれるのを期待してます。